遺言書の作成について
「遺言」と聞くと、なんだか難しそう、自分にはまだ早い、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、遺言は決して特別なものではなく、誰もが自分の死後、大切な家族が「争族」にならないよう、そして自分の想いを法的に実現するための、いわば「未来への手紙」です。
今日のゴール ― 4つのポイントを押さえよう
遺言の種類と選び方を理解する
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の特徴を比較し、あなたに最適な方式を見つけます。
遺言作成の要点を押さえる
法的に有効で、実際に使える遺言を作成するための重要なポイントを学びます。
手続きの流れを把握する
遺言作成から相続発生後の手続きまで、全体の流れを理解します。
よくある落とし穴を知る
遺言が無効になったり、手続きが滞ったりする典型的な失敗例を事前に把握します。
遺言は、「書けば安心」というものではありません。大切なのは、「発動後にスムーズに使えること」です。不動産の相続登記や銀行手続き、遺留分への配慮まで見据えた「使える設計」を意識して、一緒に学んでいきましょう。
遺言とは何か? ― 「想い」を「法」に乗せる
遺言は、ご自身の死後の財産や身分関係(遺産分割、子の認知、相続人の廃除など)に関する最終的な意思表示です。
日本の民法は、この遺言の有効性を厳格な「方式主義」に基づいて定めています。簡単に言うと、法律で定められた形式に従って作成しないと、どんなに立派な想いが書かれていても、その遺言は無効になってしまう可能性があるのです。
01
作成の容易さ
遺言の作成にかかる手間や費用はどの程度か?
02
信頼性
形式不備で無効になったり、偽造や変造を疑われたりするリスクはないか?
03
発動後の手続き効率
相続が発生した際、銀行や不動産、証券の手続きがスムーズに進められるか?

「書けば安心」ではないということを心に留めておいてください。発動後の手続きまで見据えて、設計することが、トラブルを未然に防ぐための鍵となります。
遺言の種類を知る ― あなたに合った方式は?
遺言には、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」があります。
自筆証書遺言
自分で書く遺言。手軽さと費用面のメリットがあります。
公正証書遺言
公証役場の公証人が関与して作成する遺言。最も確実な方式です。
秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま、存在を公証人に証明してもらう遺言。
特別方式はあくまで「非常時の安全弁」であり、通常は利用することはありません。この記事では、これから遺言を検討する皆さんが主に選択することになる、「普通方式」に絞って詳しく見ていきます。
自筆証書遺言 ― 手軽さが魅力の基本方式
📝 方式
「全文」「日付」「氏名」をすべて自筆で書き、押印する必要があります。この要件を一つでも欠くと、その遺言は無効になります。
💡 改正のポイント
2019年の法改正で、財産目録(不動産リストや預貯金リストなど)は自筆でなくてもよくなりました。パソコンで作成したり、通帳のコピーを添付したりすることが可能です。(各頁に署名等の要件)
👍 メリット
  • 費用がほとんどかからない
  • 思い立ったときにすぐに作成できる
  • 証人が不要
👎 デメリット
  • 形式不備のリスク
  • 内容不備のリスク
  • 保管・紛失・改ざんリスク
  • 検認が必要

「全文を自筆」(改正後は財産目録は自筆でなくても可。ただし署名等要件あり)というルールを守らないと、遺言が無効になってしまいます。形式不備の典型例は、日付の記載漏れ、「○月吉日」のような曖昧な記載押印漏れなどです。内容不備の典型例は、遺産もれ、「自宅南側2分の1」等の財産特定不足、「〇〇にすべて任せる」等手続きができない文言上のミスです。
法務局の保管制度 ― 自筆証書遺言の新たな選択肢
2020年7月にスタートした新しい制度です。自筆で作成した遺言書を、全国の法務局に保管してもらうことができます(要予約・手数料あり)。
自筆証書遺言を作成
従来通り、全文・日付・氏名を自筆(財産目録は自筆費用、署名等要件あり)で記載し、押印します。
法務局に保管申請
予約を取り、本人が法務局に出向いて保管を申請します。
相続時に証明書取得
相続発生後、「遺言書情報証明書」を取得して手続きに使用します。

この制度を利用すると、保管された自筆証書遺言は家庭裁判所の「検認」が不要になります。また、相続開始後には、あらかじめ指定した相続人等に遺言書が保管されている事実が通知されるため、遺言の存在が埋もれてしまう心配もありません。
公正証書遺言 ― 最も確実で安全な方式
🖋️ 方式
公証人という法律の専門家が、遺言者の口述に基づいて作成します。作成時には証人2人以上の立ち会いが必要です。作成された原本は、公証役場で厳重に保管されます。
👍 メリット
  • 方式不備のリスクが極小
  • 検認が不要
  • 原本の長期保全
  • 高い信頼性
👎 注意点
  • 費用がかかる
  • 証人の手配
  • 事前準備の手間、時間がかかる。

「争いが懸念される案件」や、「高額な資産」「不動産」「事業承継」が含まれる場合には、この公正証書遺言が第一選択です。費用を払ってでも「確実に発動する」という価値は計り知れません。
遺言作成の実務ポイント ― 「使える」遺言にするために
「相続させる遺言」と「遺贈」の使い分け
01
「〇〇に不動産を相続させる」
これは「特定財産承継遺言」と呼ばれ、相続人に特定の財産を渡す場合に用います。原則として相続開始と同時にその財産が承継され、手続きがスムーズです。
02
「〇〇に不動産を遺贈する」
これは「特定遺贈」と呼ばれ、相続人でも第三者でも問わず特定の財産を与える場合に用います。受遺者が承諾・拒絶の意思表示をする必要があります。
03
「〇〇に遺産の全部を遺贈する」
これは「包括遺贈」と呼ばれ、遺産の全部または一定割合を与える場合に用います。プラスの財産だけでなく、借金なども引き継ぎます。
遺言執行者の指定を忘れずに
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための権限を持つ人です。通常、相続人の代表や専門家(司法書士、弁護士など)を指定します。なお、相続人や受遺者を遺言執行者に指定しても法律上問題はありませn。
手続きの効率化
金融機関や登記の窓口が一本化され、スムーズに手続きが進みます。
争いの予防
中立的な立場にある執行者が調整役となります(第三者の場合)。
遺留分と相続後の実務 ― 知っておくべき重要事項
遺留分に配慮する
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)に法律上保障された、最低限の遺産の取り分です。
1
遺留分侵害の発生
「すべての財産を長男に相続させる」という遺言でも、次男には遺留分があります。
2
遺留分侵害額請求
侵害された相続人は、金銭の支払いを求めることができます。
3
期間制限
侵害を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。
相続後の実務を知っておく
1
不動産の名義変更(相続登記)
令和6年4月1日以降、3年以内の申請が義務化されます。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象となります。(相続人の場合)
2
銀行・証券会社の手続き
金融機関での手続きも、遺言書の種類によって必要書類や手続きの流れが異なります。「法定相続情報一覧図の写し」を併用することで手続きを効率化できます。
まとめ ― 「書く」から「使える」遺言へ
遺言は、ご自身の想いを法的に実現する大切なツールです。
方式の選択
ご自身の状況(資産規模、家族関係、費用、スケジュールなど)に合わせて、最も適した方式を選びましょう。
条項設計
単に財産を分けるだけでなく、「使える」ことを意識し、遺言執行者の指定や遺留分への配慮、付言事項を盛り込むことが重要です。
定期的な見直し
家族や資産状況の変化に合わせて、内容を更新することが重要です。

遺言はテンプレートで済ませると、かえってトラブルの原因になることがあります。ご家庭の事情は千差万別です。私たち司法書士は、相続登記や生前の資産管理の専門家として、あなたのご家族に合わせた最適な遺言設計をサポートいたします。
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